大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所松戸支部 昭和55年(わ)34号 判決 1980年11月20日

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、A産業でブロック工として働いていたものであるが、B、C、Dの三名が、Bの勤務先である千葉銀行柏支店の取引先であるイトーヨーカ堂柏店からBが他の銀行員一名と集金した現金を輸送する車両を襲撃して金員を強取しようと企て、共謀のうえ、昭和五五年一月一四日午前一〇時五〇分ころ、千葉県柏市柏二丁目三番二五号先路上において、B運転の当日前記イトーヨーカ堂柏店などから集金した現金約六四三六万円を積載した普通貨物自動車(白色ライトバン)が同所を通りかかるや、同所で包丁を持って待伏せていたCが同車両の前に立ち塞がって同車両を停車させ、同人及びDの両名が同車両内に乗り込み、助手席に同乗していた同銀行柏支店係員E(当時二四歳)に対し「騒ぐと刺すぞ。前を向け。言うことを聞け。」などと言って脅迫し、同人を畏怖させたまま、Bにおいて、同県東葛飾郡沼南町大島田九三六番地山林内まで運転走行し、同日午前一一時一〇分ころ、同所において、Dが右Eの背広を上にあげて顔を覆い、その手足を所携のビニール製紐で緊縛するなどしてその反抗を抑圧し、同車両内にあった同銀行所有の現金四七〇三万円を強取した際、右Cからの打明け話などによって予めその情を知りながら同人らの前記犯行を幇助する認識の下に、同人の指示に従い、自己の自動車で右山林内において同人らを待受け、同人及びDの両名を乗車させて同所からC宅まで運転走行して同人らを逃走させ、もって同人らの前記犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)《省略》

(強盗幇助罪を認定した理由)

(検察官の主張の要旨)

検察官は、本件について被告人が共同正犯としての刑責を負うべきであると主張し、その理由として、(一)Cは当初被告人に本件犯行を打明けていなかったが、現金輸送車を襲撃する直前に犯行を打明けていること、すなわち、Cは「一月一四日現金輸送車を襲うためにイトーヨーカ堂柏店付近まで行ったとき、被告人に『これから自分達は銀行の車に乗り込む。その車には金が積んであり、白色ライトバンだからあとをつけろ。』と指示した。」旨当公判廷で証言しており、右証言は信用できること、(二)被告人が計画を打明けられながら離脱することなく敢て犯行に及んでいること、(三)被告人が本件で果たした役割、すなわち、共犯者の逃走を容易にするための車の運転が本件犯行の中において決して軽微なものではなく、報酬として二〇〇万円の大金を貰っていることなどを総合すれば、被告人には強盗の共同正犯としての刑責が認められるべきであるという。

(当裁判所の判断)

検察官の主張は、その主張自体から明らかなように、被告人は本件の実行行為自体には関与していないから、被告人について共謀共同正犯としての刑事責任を追求するものであるが、共謀共同正犯が成立するためには「特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議」の成立したことが必要であり、他人の行為を利用して特定の犯罪行為を遂行しようとする意思までを有せず、単に非実行行為に加担するだけの意思しか有しない者には未だ共謀による正犯の責任を負わせることはできないと解すべきである。

まず、弁護人は、右C証言が信用できないと主張するが、被告人は、当公判廷において、捜査段階で取調官から脅迫、強要などを受けた事実がないことを認めており、被告人の捜査段階での供述が一貫して右C証言と符合していること、弁護人は、それまで本件犯行を被告人に打明けていなかったCが直前になって打明けるというのは不合理であるというが、同人の証言自体からも明らかなとおり、同人も本件犯行を敢行することに少なからずちゅうちょを覚えていたものの、一月一二日Bらと現金強奪場所を柏隧道上から本件山林内に変更する謀議をなした際、Bから「一月一四日は間違いなく自分が運転する。」旨を告げられていたのであるから、一月一四日、本件犯行直前になって本件犯行を被告人に打明けたとしても、これをもって必ずしも不自然であるということはできないことに照らすと、右C証言は信用でき、これに反する被告人の当公判廷における供述は単なる弁解にすぎないと断ぜざるを得ない。したがって、右Cからの打明け話にこれまでの経緯、すなわち、被告人がCの依頼により一月九日、一〇日、一一日と同人及びDの両名を乗車させてC宅からイトーヨーカ堂柏店付近まで運転走行し、柏隧道上で待っていたこと、九日には喫茶店「コンパル」でCから報酬として一〇〇万円を貰える旨告げられ、被告人自身もCらが麻薬取引などの犯罪をしようと企ていることを了知していたことなどを総合すると、被告人は、本件犯行直前に、Cからの打明け話などにより、Cらが本件犯行を敢行することを認識していたものと認めることができ、この認識の下に、判示のとおりCらを乗車させて本件山林内からC宅まで運転走行して逃走させたものということができるが、被告人が、Cらの行為を利用して自らも強盗をする意思であったかどうかについては更に他の事実をも総合して認定されるべきであるところ、なるほど検察官主張のとおり、本件において被告人が果たした役割は軽微なものではなく、むしろ必要不可欠なものであったこと、また、被告人が受領した金額は二〇〇万円であり、強取金額からすればさほどのものではないが、その役割分担に照らせば、それ相応の金額であるということもできないわけではないことが認められるものの、他方、被告人は前記のとおり一月一二日の謀議、本件山林内の下見には全く参加させられておらず、常にCら三名において決定されていること、また、被告人が受領した二〇〇万円についても、本件強取金員をCら三名で三等分し、Cの取分から出されたものにすぎないこと、Cらにおいても、被告人を単に逃走用車両の運転手としてしか考えていなかったことなどの事実が認められ、これらの事実を総合検討すると、被告人にCらの行為を利用して自らも強盗をする意思があったとは認め難く、この点については証明不十分であるといわざるを得ず、結局、判示のとおり強盗幇助罪を認定した次第である。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法六二条一項、二三六条一項に該当するが、右は従犯であるから同法六三条、六八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を処断すべきところ、情状について考えるに、本件は、Bが業務上知り得た情報を悪用して、共謀のうえ、現金輸送車を白昼堂々と襲撃して多額の現金を強取した際、その情を知りながら自己の自動車でCらを現場から逃走させてこれを幇助したという事案であり、その主謀者が銀行内部の者であったことから金融機関に対する社会的信用を大いに失墜させ、社会に与えた影響が重大であること、被告人の果たした役割が本件において必要不可欠のものであったことに照らすと被告人の刑事責任は重大であるといわざるを得ず、本件において被告人が利得した二〇〇万円はすべて銀行に還付、若しくは被害弁償がなされていること、被告人も自己の非を悟り充分反省していること、これまで前科前歴が全くないこと、その他被告人の家庭状況等諸般の事情を総合考慮したうえで、被告人を懲役二年六月に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入することとし、訴訟費用は刑訴法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 下山保男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例